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親の土地上に、兄弟の一人が自宅を建てて生活していることがあります。親子の間では地代の支払いもなく、無償で使用していることが多いです。
この場合、親が亡くなって相続になったとき、遺産分割はどのように考えればいいのでしょうか。下記の例のもとに解説を進めましょう。
特別受益に該当するか否か
長男Aは親から無償で土地を使用することを許されているわけですが、これは法律的には「使用貸借権」と評価されます。
Aは、親の土地を無償で使用する権利を与えられたことになります。
そうすると、Aは、親から生前に使用貸借権をもらっているので、これが特別受益に該当するかどうかが問題になります。特別受益に該当するなら、相続人Bとの公平を図るため、Aの遺産の取り分は少なくなります。
本件のように土地が主な遺産である場合は、Aの使用貸借権は原則として特別受益に該当するといえます。
特別受益の評価額
次に、Aの使用貸借権が特別受益に該当するとして、それを金額にするといくらに評価されるのかが問題になります。
使用貸借権が特別受益となる場合の評価については、裁判実務上、更地価格の1割から3割までの間で、具体的な事情を踏まえて判断される傾向にあります。
このケースで、仮にAの使用貸借権を更地価格3000万円の10%である300万円とすると、遺産の評価額と、AとBの具体的相続分は以下の通りです。
土地の評価額
土地の評価額は、Aの使用貸借権の負担があるので、その分だけ評価額が下がることになります。
更地価格3000万円-Aの使用貸借権300万円=2700万円
土地以外の遺産の評価額
預金 2000万円
遺産の合計額 4700万円
みなし相続財産 4700万円+Aの特別受益の持ち戻し300万円=5000万円
AとBの具体的相続分
Aの具体的相続分 5000万円×2分の1-300万円(特別受益)=2200万円
Bの具体的相続分 5000万円×2分の1=2500万円
遺産の分け方
具体的にどのように遺産を分けるかですが、土地の上にAの自宅が存在するので、Aとしては土地の取得を希望するでしょう。
また、Bとしても、Aの自宅が建っている土地を取得しても使用や売却が難しいので、金銭をもらって解決することを希望する可能性が高いと思われます。
そこで、Aが土地(評価額2700万円)を取得、Bが預金2000万円を取得して、AがBに代償金として500万円を支払って解決することが、もっとも円滑な遺産分割となるでしょう。
また、Aが土地を取得してBに代償金を支払う解決であれば、
- Aの使用貸借権は特別受益になり、その評価額相当額が持ち戻される
- 土地はAの使用貸借権の負担があるので、土地の評価額は更地価格から使用貸借権の評価額を減額する
- 最終的にAが取得する財産は「使用貸借権+使用貸借権の分だけ減額された土地=更地価格の土地」
となるため、Aの使用貸借権がいくらであっても最終的にAが取得するのは更地価格3000万円の土地になります。
よって、更地価格3000万円の土地と預金2000万円をAとBで2分の1ずつ分割するのと結論は同じになりますので、「Aの特別受益はいくらか」という問題が生じないことになります。
このような遺産トラブルを防止するため
実際には、Aに代償金を支払う資力がないなどの理由で、遺産分割をめぐるトラブルが起こる可能性があります。
そこで、本件のようなケースでは、親が生前に遺言を作成しておくなどして、遺産をめぐる争いの発生を予防ことが望ましいといえます。
そのためには、遺言書作成について専門家に相談することをおすすめします。弁護士であれば、遺言書の書き方だけでなく、法律上の問題点を検討し、その対策について併せて提案することも可能です。
当事務所は相続の初回相談を無料で行っておりますので、お気軽にお問い合わせください。