円満に遺産分割したい方へ

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遺産分割でもめる場合

遺産分割は、本来であれば故人の思いを尊重し、残された家族が協力して行うべき手続きです。しかし、現実には多くの相続案件で意見の対立が生じ、話し合いが長期化したり、家庭裁判所での調停・審判に発展したりケースが少なくありません。特に、家族構成や財産状況の変化に伴い、相続に関する価値観や考え方が多様化しており、それがもめ事の火種となっています。

もめる原因は様々ですが、大きく分けると以下のようなパターンがあります。

相続財産の範囲や評価額に対する認識の違い

例えば、不動産の時価や評価額について意見が分かれたり、預金や株式の評価時点について争いが生じたりすることがあります。不動産の場合、相続税評価額と実際の市場価格に差があるため、どちらを基準にするかで意見が対立することがあります。

相続分に対する不満

法定相続分に基づいても、必ずしも各相続人が納得するとは限りません。「長男だから多くもらうべきだ」「介護をしたから多くもらうべきだ」といった主張が衝突することがあります。

特別受益や寄与分に関する争い

被相続人から生前贈与を受けた、生活費の援助を受けた、あるいは長年にわたり介護や事業の手伝いをしてきたなど、相続分の修正要素となる事実を巡って意見が対立することがあります。

感情的な対立

相続は単なる財産分配の問題ではなく、家族のヒストリーや感情が深く関わります。兄弟間の確執や、親族間の長年のわだかまりが表面化することで、冷静な話し合いが困難になる場合もあります。

こうしたトラブルを避けるには、早期の情報共有と透明性の確保が重要です。また、相続人間で直接やり取りをすると感情的になりやすいため、弁護士などの専門家を交えて冷静に協議を進めることが有効です。

弁護士として多くの相続案件を経験してきた立場から申し上げると、「もめないための遺産分割」には準備段階からの戦略が欠かせません。特に、相続財産の把握や評価、分割方法の選択肢を早い段階で明確にし、全員が納得できる案を作成することが円満解決の鍵となります。

相続財産の開示

遺産分割を円満に進めるための第一歩は、相続財産の全容を正確に把握することです。財産の内容や範囲が不明確なまま協議を始めると、「隠し財産があるのではないか」「特定の相続人が有利になるよう操作しているのではないか」といった疑念が生まれ、信頼関係が崩れます。この疑念がこじれると、話し合いは一気に対立構造に変わり、解決までに長期間を要することになります。

財産目録の作成

相続財産の開示は、まず財産目録の作成から始まります。財産目録には以下の情報を網羅する必要があります。

  • 不動産(所在地、地目、面積、登記簿謄本の記載内容、固定資産税評価額、時価など)
  • 預貯金(銀行名、支店名、口座番号、残高証明書)
  • 有価証券(株式、投資信託、債券等の銘柄・数量・評価額)
  • 現金(自宅保管分や貸金庫内の現金)
  • 動産(自動車、貴金属、美術品など)
  • 債務(借入金、未払い税金、保証債務など)

重要なのは、プラスの財産だけでなくマイナスの財産も含めて全て記載することです。借金や保証債務を把握せずに相続してしまうと、後で多額の負担が発覚することがあります。

情報の収集方法

財産情報の収集には、戸籍謄本や登記簿謄本の取得、金融機関への残高証明依頼、証券会社からの取引報告書取り寄せなど、正式な手続きを踏むことが必要です。相続人全員で協力して行うのが理想ですが、特定の相続人が代表して行う場合は、後々の疑念を避けるために証拠となる書類を全員に共有することが重要です。

情報の開示と法的対応

法律上、相続財産の開示は直接的な義務規定があるわけではありませんが、家庭裁判所の調停や審判になった場合、財産の開示を命じられることがあります。開示を拒否した場合、調停委員や裁判官の心証が悪くなり、不利な結果につながることもあります。

弁護士が関与するメリット

弁護士が介入すると、金融機関や法務局からの情報取得がスムーズになり、かつ第三者として中立的に資料を整理できます。感情的な疑念を減らし、協議を円滑に進める効果も大きいです。
経験上、弁護士を通じて財産の開示と目録作成を行った場合、相続人間の不信感が大幅に軽減され、その後の遺産分割協議がスムーズになる傾向があります。

相続分に応じた公平な内容にする

遺産分割協議の核心は、誰がどの財産を、どれだけ取得するのかという点です。法律上は民法で「法定相続分」が定められていますが、それが必ずしも全員にとって公平だとは限りません。特に、被相続人の生前の支援や介護、事業への関与など、個別事情によって調整が必要になるケースは少なくありません。

法定相続分と遺言の効力

民法では、配偶者や子ども、直系尊属、兄弟姉妹などの相続人ごとに相続分が定められています。例えば、配偶者と子が相続人の場合は、配偶者が2分の1、子ども全員で残りの2分の1を分け合う形です。
ただし、遺言書がある場合はその内容が優先されます。被相続人が「特定の財産を誰に与えるか」を明確に記載していれば、原則としてその通りに分けられます(ただし遺留分を侵害する場合は侵害額の請求が可能)。

公平性の確保と「実質的な平等」

法定相続分は「形式的な平等」を担保しますが、現実的な公平は状況によって異なります。例えば、ある相続人が長年にわたり親の介護をしてきた場合や、家業を支えてきた場合は、その貢献度(寄与分)を評価し、取得分を増やす調整が行われることがあります。逆に、生前に高額な贈与を受けていた場合は、それを特別受益として持ち戻し、全体の公平を図ります。

評価の難しさと不動産の問題

公平な遺産分割を難しくしているのが、不動産などの分割が困難な資産です。不動産は現物分割が難しく、評価額の算定方法によっても相続人の満足度が変わります。相続税評価額を使うのか、実勢価格を参考にするのか、あるいは鑑定するのかによって結果が大きく変わる可能性があります。
さらに、不動産を取得する相続人が代償金を他の相続人に支払う場合、その金額や支払い方法の交渉が必要です。

現物分割・換価分割・代償分割の選択

公平性を保つためには、分割方法の選択が重要です。

  • 現物分割:財産そのものを分ける方法。不動産の場合、土地を分筆して分けるなど。
  • 換価分割:財産を売却し、売却代金を分ける方法。不動産や株式などで多く用いられる。
  • 代償分割:ある相続人が財産を取得し、他の相続人に代償金を支払う方法。

状況に応じて、これらを組み合わせて柔軟に対応することが、真の公平性につながります。

 弁護士が調整役として果たす役割

公平な分割を実現するには、相続人全員が納得できる説明と根拠が必要です。弁護士は、法的な枠組みと実務的な経験に基づき、分割案を作成し、合意形成をサポートします。特に、数値的な根拠や過去の裁判例を示しながら交渉を進めることで、感情的な対立を最小限に抑えることが可能です。

不動産の検討について

遺産分割の場面で最も争いになりやすい財産のひとつが不動産です。不動産は金銭のように簡単に分割できず、評価額や利用方法、処分方法など多くの要素が絡み合うため、相続人間の意見が衝突しやすい特徴があります。
特に、日本では自宅や土地が相続財産の大部分を占めるケースが多く、「誰が住むのか」「売却するのか」「貸すのか」といった判断が、感情面・経済面の両方で大きな影響を及ぼします。

不動産の評価方法

不動産を公平に分けるためには、まずその価値を正しく把握することが不可欠です。評価方法にはいくつかの種類があります。

  • 相続税評価額(路線価方式や固定資産税評価額を基に算出)
     税務上の計算基準として広く用いられますが、市場価格より低く算出されることがあります。
  • 実勢価格(実際の取引価格に近い額)
     近隣の売却事例や不動産会社の査定を基に算出します。
  • 不動産鑑定評価額
     不動産鑑定士による正式な鑑定評価で、遺産分割調停など法的手続きにおいて有力な証拠として扱われます。鑑定費用がかかります。

分割方法の選択肢

不動産は以下の方法で分割するのが一般的です。

  1. 現物分割
     土地を分筆して複数人で所有する方法。ただし、地形や建築基準法上の制限で分筆できない場合もあります。
  2. 換価分割
     不動産を売却し、売却代金を相続人で分ける方法。公平性は高いものの、売却に伴う税金や手数料の負担、売却時期による価格変動リスクがあります。
  3. 代償分割
     ある相続人が不動産を取得し、他の相続人に代償金を支払う方法。不動産をそのまま活用できるメリットがある反面、代償金の資金調達が課題になることがあります。

居住権・利用権の問題

被相続人が住んでいた自宅に、相続人の一人(多くは配偶者)が引き続き住み続けたい場合、売却や現物分割では解決できない場合があります。
このような場合、20204月から施行された配偶者居住権を活用することで、配偶者が生涯にわたり自宅に住み続ける権利を確保しつつ、他の相続人の相続分にも配慮できます。

感情的対立の背景

不動産は単なる財産価値だけでなく、「家族の思い出」や「先祖から受け継いだ土地」という感情的な要素が強く絡みます。そのため、数字上の公平性だけでは解決できないことも多いです。
弁護士としての経験上、感情面を無視して数字だけで交渉すると協議が行き詰まるケースが多く、逆に感情を丁寧に扱いながら説明することで合意に至る例も少なくありません。

弁護士が介入するメリット

不動産相続において弁護士が関与することで、

  • 評価額や分割方法の根拠を明確にできる
  • 各相続人の利害を調整しやすい
  • 売却や登記手続きまで一貫してサポートできる

といった利点があります。
特に、感情と数字のバランスをとる交渉力が、円満な解決に直結します。

大きな額の生前贈与があった場合の考慮

遺産分割の際、被相続人が生前に特定の相続人へ多額の財産を贈与していた場合、その取扱いが大きな争点となります。特に、住宅購入資金の援助や事業資金の支援、結婚資金などは、家族間では「助け合い」として処理されることも多い一方、法的には特別受益として遺産分割に影響を与える可能性があります。

 特別受益とは

民法903条では、相続人のうち、被相続人から生前に贈与や遺贈を受けた者がいる場合、その贈与分を相続分の計算上考慮する「持ち戻し」という制度を定めています。これが特別受益制度です。
具体的には、次のような贈与が対象になります。

  • 婚姻や養子縁組のための贈与(結婚資金、持参金など)
  • 生計の資本としての贈与(住宅購入資金、事業資金など)

例えば、被相続人の財産が3,000万円で、相続人が2人、うち1人が生前に1,000万円の住宅資金援助を受けていた場合、計算上は「3,000万円+1,000万円=4,000万円」を相続財産として扱い、各人の相続分を算出します。

特別受益の計算例

例)相続財産3,000万円、相続人は長男と次男の2人。長男は生前に1,000万円の住宅資金を受け取っている。

  • 持ち戻し後の財産総額:3,000万円+1,000万円=4,000万円
  • 各相続人の法定相続分:4,000万円÷22,000万円
  • 実際の取得額:
     長男:2,000万円-1,000万円(特別受益分)=1,000万円
     次男:2,000万円

このように、特別受益を考慮することで、相続財産の公平な分配を図ります。

 特別受益の立証と争い

特別受益があったかどうかは、立証責任を負う側が証拠を集める必要があります。通帳の振込記録、契約書、領収書、親族の証言などが有力な証拠となります。
実務上は「贈与の目的」や「額の大きさ」が争われることが多く、相続人間で認識が食い違うと調停・審判に発展します。

持ち戻し免除の意思表示

被相続人が「これは特別受益として扱わない」と意思表示をしていた場合、その贈与は持ち戻しの対象外となります。遺言書や贈与契約書にその旨を明記しておくことで、後の紛争を防げます。
口頭での意思表示だけでは争いになりやすいので、書面化しておくことが望ましいです。

弁護士の関与による解決

生前贈与の有無や評価額を巡る争いは、感情的な対立に発展しやすく、相続協議を長期化させます。弁護士が関与することで、

  • 証拠収集のアドバイス
  • 持ち戻し計算の明確化
  • 公平な分割案の提示

などを通じて、早期解決が期待できます。

円満に遺産分割をしたい方はすがの総合法律事務所へご相談ください

遺産分割は、単に財産を分けるだけの手続きではありません。そこには、家族の歴史や感情、生活状況、将来のライフプランまで、多くの要素が絡み合っています。円満に遺産分割を行うためには、法律知識と冷静な交渉力、そして相続人一人ひとりの立場を理解する姿勢が不可欠です。

すがの総合法律事務所では、これまで数多くの相続案件を取り扱ってきました。弁護士が直接依頼者の状況を丁寧にヒアリングし、次のようなサポートを行います。

初期段階からの総合的支援

  • 相続財産の調査・目録作成
  • 法定相続分や寄与分、特別受益の有無の確認
  • 不動産評価や売却方法の提案

これらを早い段階で行うことで、相続人間の不信感を防ぎ、協議をスムーズに進めます。

円満解決のための交渉力

相続は感情が複雑に絡むため、当事者同士で直接話し合うと衝突が深まりやすいものです。当事務所の弁護士が中立的な立場で間に入り、根拠のある分割案を提示しながら、全員が納得できる解決を目指します。

 裁判所手続きにも対応

もし話し合いで解決できない場合でも、家庭裁判所の調停・審判まで一貫して対応可能です。過去の裁判例や実務経験を活かし、依頼者が納得できる結果を目指します。

「早めの相談」がトラブル回避の鍵

相続問題は、時間が経つほど状況が複雑化します。財産の処分や相続人の生活環境の変化によって、協議が困難になる前に、できるだけ早く専門家に相談することが重要です。特に、相続財産に不動産が含まれる場合や、生前贈与の有無が不明な場合は、早期の調査と対応が不可欠です。

ご相談の流れ

  1. お問い合わせ(お電話またはメール)
  2. 初回面談(事案の詳細をヒアリング)
  3. 財産調査・分析
  4. 分割案の提示と交渉
  5. 合意成立または裁判所手続き

初回相談では、今後の見通しや必要な資料、予想されるリスクについても丁寧にご説明します。

相続は、家族にとって最後の共同作業です。
争いを避け、お互いが納得できる形で次の世代に財産を引き継ぐために、私たちは全力でサポートいたします。

円満な遺産分割をご希望の方は、すがの総合法律事務所までお気軽にご相談ください。

執筆者情報

菅野亮
菅野亮
当サイトでは、相続問題にまつわるお悩みに対して、弁護士の視点で解説をしています。北海道札幌市で、「迅速な解決」を大切に代理人として事件の解決に向けて取り組んでいます。
初回相談は無料でお受けしておりますので、お悩みの方は、お一人で抱え込まず、ぜひ一度相続に注力する弁護士にご相談ください。
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